ウルトラマンマスクの変遷


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ウルトラマンマスクの変遷


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初代ウルトラマンは3つの顔と体に種分け出来ますが、それは造型にこだわった視点だけではなく(結果論だとしても)各エピソードにそれぞれ見合った顔かたちをしているのが「ウルトラマン」の奥深いところです。偶然さえ味方に付けた希有な傑作です。
美術スタッフの理想は理想としても、良くも悪くも変容していく過程の意味は大きいのです。
例えば、成田さんがウルトラマンのデザインをせず、烏天狗のような正義の宇宙生物ベムラーが登場していたら、どんなに怪獣が魅力あっても、ヒットはなかったと思います。
またウルトラマンがどんなに格好良くても、トドラやモングラーみたいのばかりだと子供は興奮しなかったでしょう。
脚本や演出、音楽にしても同じ事が言えます。合成、配役、日曜夜7時枠、どれが欠けても「ウルトラマン」はどうなっていたか。
それらすべてのエッセンスを頭で攪拌しつつ、やはりデザインと造型に重きを置いてしまうのは性分ですが、いまの仕事でウルトラマンがらみが多いので自分の整理の意味も含めて常に考えてしまうのです。
そんなわけで「美の巨人たち」放送記念で(笑)、ちょっとウルトラマンのマスクの変遷をまとめてみました。

「美の巨人たち MANの立像」から。成田家のウルトラマンマスク。佐々木明製作。


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〈1〉デザインと試着
66年の春に描いた成田亨のデザインがいくつか残されています。それまでのヒーローが生身の部分を残したり感じさせたりしていたのは口です。台詞があるからでしょう。ウルトラマンも口を動かす試みが何度かされました。
ウルトラマンの顔は成田さんが好きなフォルムです。楕円を鋭角に削いで行く感じです。極端にいうと菱形を膨らませたシルエットになります。ぼくはこれを「成田エッグ」と名付けました。
だいたい成田エッグが出来れば、ウルトラマンは、目もセンターのツバも極端に言って口さえなくても、ウルトラマンに見えてしまいます。
舞台美術家オスカー・シュレンマーのオブジェにウルトラマンの原点を見つける指摘がありますが、人間の顔のデフォルメの方向性でしかないですよ。たしか、古墳から頭頂部にツバのある頭部のみが発見されています。シュレンマーが日本の土偶に触発されたはずもありません。発想の相似はどこにでもあります。
しかし、フォルムの美しさがそれらにはない。成田さんは彫刻家だから、フォルムがすべてでした。コンセプトで探るなら、そういう事です。シュレンマーなどと比較すべきでない。
デザインでは口だけ最後まで未定です。
役者の口を露出させるのかどうか。佐々木さんの原型は人の口を多面体で構成し、下唇だけ明確にしました。上唇と鼻先は一体化です。宇宙人だから人間臭さを排除したわけです。
可動させる事で、口角、頬にかけてシワが寄りました。
飯島監督が考えた「シルバーヨード」(俵藤太が大ムカデを退治するときに弓矢を引いた際ツバをつけた故事に由来)は劇中では使いませんでした。その名残はソノシート(第2集)にあります。
ウルトラマンのマスクは、古谷敏のライフマスクを取って、粘土を盛りつけました。
つまり、あの面長で鼻の高い古谷さんの顔が、ウルトラマンの骨格なのです。
ウルトラマンの試着時の写真が数点あります。
66年の3月下旬でしょう。
マスクは鼻先がちょこんと前へ突き出して、トップの尖りと顎の先、耳のエッジなどとに、共通の流れがあります。
もしファスナーがなかったら、背中にヒダは付けなかったのでしょう。ウルトラマンの頭頂部の尖りの美しさは永遠に隠されてしまったのでした。



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〈2〉Aタイプ(1話~13話)
1話~13話まで登場したラテックス面のウルトラマンを、ぼくは便宜上Aタイプと呼びました。ABCと3つの顔に名称を付けたのです。最初は79年の同人誌でやりました。
80年以降、ライター師匠の安井尚志さんが「模型情報」「コミックボンボン」などで広めました。その頃、安井さんとウルトラマンの造型に関して四六時中話し合っていました。
成田さんを探し当てて画集を出したのも安井さんの尽力です。
成田さんと知り合ってみると、原型は1つ。顔の修正を佐々木さんへ依頼した覚えはないとの事。
しかもこのマスク(成田家のCタイプ)が最初から完成型としてあったとおっしゃるので、その証明として、手持ちのCタイプから型を取ってラテックスで成形しましたが、だいぶ違います。
ラテックスは口を動かすためで、内側を樹脂で固めたのだとか。ここでいう樹脂とは、ポリエステル樹脂、いわゆるFRPの事。グラスファイバーを混ぜて強度を増します。
頬のところで上下に分けたそうです。口の開閉を断念してから、樹脂を外しています(8話のスタッフ集合写真で開いたマスクの柔らかさが分かる)。鼻先に樹脂が残っていて、そこだけ三角になります。たぶん、太い番線が入っているのでしょう、筋のような突起が浮かびました。ヒゲのように見えます。
66年4月1日に第1回目の特写会が開かれ、一斉に新聞や週刊誌で紹介されました。
「少年マガジン」の表紙になったのは5月に入ってです。初めて見るカラー写真のウルトラマンの摩訶不思議な魅力に釘付けになったのでした。
写真、倉方茂雄さんの電飾とその口のギミック。桟に引っかけて吊せるぐらいだからマスクの内部全体が樹脂のスカルになっていたと想像出来ます。
ガマクジラと戦うAタイプはNGカット。この時、Bタイプが完成して、撮り直ししました(66年9月末~10月頭?)。もし予告編が残っていたら、絶対にこのフィルムを使っています(当時の予告編はラッシュを使った)。
実は、AとBの顔はそう大差ないです。異なるのは、耳の角度、頬に影が出来るほどの急角度、口角の深さです。
佐々木さんの造型は水粘土で、濡れた雑巾をかぶせて同じ原型を半年保たせたとか。
目の原型は樹脂の押し型です。ABC同じ型だと言うので、だんだん手を加えていったように感じます。



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〈3〉ノアの神(7話)
66年8月28日の放映。
成田さんはカポックを削ったものだと。たしかに体はカポックでしょうね。
ただ仕事のゆったりした佐々木さんが時間に追われて、大事な顔までカポックを削っていたかどうか。現実として目の前に原型があれば石膏をかけた方が早いです。
石膏型へ石膏を注型するのは彫刻家ならお手の物です。
ここでちょっと考えます。
大胆な想像ですが、この顔、誰が見てもCタイプを思わせる。
原型が1つだったとして。
もしこの時Cタイプにとりかかっていたら? むろん、樹脂成形でBタイプを抜いた後としてです。マスクは使う使わないは別として、自分のためだったかもしれません。なんせ彫刻家ですから自分の作品でもあったはず。時間があれば手を入れると思います。
ふつうにウエットスーツの発注とマスクの成型や電飾に1~2週間かかるでしょう。
円谷英二がシワをなんとかならないかと苦言を呈しての樹脂のマスク登場と言います。どの段階だったのでしょうね。
ともかく、ノアの神。マスクと同寸に見えるから悩ましい。それもCタイプの顔。この時期に異質な顔のウルトラマンでした。
ちなみに、ウルトラマンの飛び人形の最大のものはカポックで、のちにヒューマンで改造して使われています。



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〈4〉Bタイプ(14~29話)
66年10月から67年1月いっぱいまでこのウルトラマンです。
個性の強い顔に見えますが、Aタイプの原型が元になっています。
知り合ったばかりの成田さんに2クールからどうして顔が変わったのか、樹脂の面はどうして2種類あったのか、うるさく聞きました。
たぶん、みんなそうでしょう(でも成田さんにAとかBとか言っても通じません)。
少し経って、アルカイックスマイルにこだわりたかったと成田さんが述懐したと人伝てに聞きました。
そうなんです。Bタイプは怒った顔をしています。子供がぷっとふて腐れた感じ。そこがなんともエロティックで中性の魅力を感じるのです。
目が大きく出っ張っています。同じ押し型でも、木枠へ押しつけるタイミングで形はまちまちになります。
一番の特徴は頬に影が見えるほどの急角度です。左側の方が大きく角度がついていて、そもそも非対称なウルトラマンの中でもアクの強い顔になりました。
リアルタイム世代は、この顔がもっとも長く活躍していたので、印象が強いと思います。



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〈5〉ニセウルトラマン(18話)
11月13日放映分、ただ1回だけの樹脂マスク。
Bタイプに比べて、こっちの方がアルカイックスマイルなんですね。そこで誰もが考えるのは、この口元がそのままCタイプに受け継がれたと。
むろん、同じ原型です。
ノアの神の顔は保留として、A、B、ニセ、Cと、同じ原型と見ています。
この目の角度、パーツの尖り、なかなか素敵です。
ニセウルトラマンを好きな人は多くて、ぼくもこれの仕事が来たらきっとノリノリでやるでしょう。実はすでに作った事がありました。
やはり成田さんはウルトラマンのマスクの改造だ、と言うのです。
成田家のウルトラマンはCタイプですから、そこで手元のCタイプを改造して再現してみると、これまた違う。
先の試しに作ってみたAタイプとニセウルトラマンは、竹書房(ベストブックウルトラマン)に載せてあります。
樹脂マスクの改造より原型をいじった方がはるかに簡単に似せられます。
1日かそこらで原型アップでないと間に合いませんからね。
覗き穴、ありません。でも反射板の下の方がカットされていたそうです。
かといっても見えなかったと思いますよ。光を感じるぐらいで。それだけでも救われますが。
体はAタイプのものです。のちにゾフィの体になります。



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〈6〉Cタイプ(30~39話)
もっとも有名なウルトラマンの顔です。しかし30話からの登場ですから、10本分です。67年2月頭から4月頭まで。
Aタイプが13本、Bタイプが16本。
それでも印象が強いのは、完璧な造型だからでしょう。昨今の美術展で、成田家のマスクが展示されますが本当に威厳があると思います。
撮影が終わって佐々木さんが作った3つのマスクのうち、もう1つ、古谷家にもウルトラマンは贈られました。
佐々木家のマスクはないそうで、この2つが現存する最古のマスクです。同じ原型にそれぞれ石膏をかけて樹脂成形してあります。
微妙に雰囲気が違うのは、型取りした後、切り金の箇所が崩れますから手直しをします。
6つか7つあっただろう、ウルトラセブンの顔がそれぞれ微妙に違っていて、オデコや目の段、頬の膨らみなど、差異があるのは原型に手が入るから。毎回、石膏取りしていたようです。
画像、向かって左が成田さんのもの。
成田さんの方が目の角度がキツイ。
古谷さんの方がゆるやかです。
並べて見ると、成田さんの方がゾフィに近く、古谷さんの方がCタイプに近い目の角度です。
成田さんはマスクを頭上に飾っていたため、タバコのヤニで色が変わりました。この色が、後にバンダイの依頼で「ウルトラマンGグレート」の時に描いた「ウルトラマン神変」の黄金のウルトラマンに影響を与えたと見ています。
古谷家のマスクは原型そのままの荒々しさがありますが、成田家の方はエッジがあります。耳の穴、唇や鼻先。成田さんが手を入れたのかもしれません。



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〈7〉ゾフィ
67年4月9日登場。台本の1稿目では「ウルトラマンの仲間」という扱いでした。
ゾフィのトサカに黒いラインがある。その事を先に発見したのはガレージキットをやっている人だと聞きました。なるほど、昨今の補整された画像で見ると明かです。
ゾフィもニセウルトラマン同様、目に覗き穴はありませんが、反射板の下はカットされていたそうです。光を感じる程度の穴です。
この撮影の後、ゾフィはウルトラマンに直されます。アトラクションで使われ、さらに「サークロラマ モーレツ大怪獣戦」で使われ、最後は「帰って来たウルトラマン」のいわゆるNG版になります。NG版も再塗装して劇中で使われました。
新マンは、このマスクの複製になります。
同じ目の位置に目が付きます。新マンのセンターから離れた左目はゾフィの倣いになるわけです。
この考証は、ぼくは関心がなかったんですが、モーレツ!特撮ナイトの常連となった斉藤さんの資料と解説で納得いったのです。
しかもそのマスク、残ってますからね。
ウルトラマンフェスティバルへ1回だけ展示されたそうです。
実物を西村祐次さんに見せてもらったら、佐々木さん謹製の銀粉を混ぜた樹脂が剥げた下地に見えました。Aタイプのウエットスーツが耳の後ろに残されていました。
なんだかすごい存在感がありました。



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〈8〉新マンまで
撮影が終わった造型物は、人が入れるものはアトラクションに使われ、そうでないと展示用になります。
たとえばペスターなど2人入るものやケムラーなど4つ足歩行のものはアトラクで使えないのでアンコや木枠を入れて展示物にされました。
ウルトラマンは古谷さんの体形で作られているので、別の人が着るとだらしなくなります。
アトラク用がフリーサイズになるのは体形に左右されないためです。
67年4月に本放送が終わったウルトラマンは、その年の東宝の夏休み興行「キングコングの逆襲」と併映された「長篇怪獣映画ウルトラマン」の宣伝に使われました。
この時、ゾフィがウルトラマンにされています。Cタイプも当然アトラクで使われ、その後行方不明になったBタイプともども倉庫で下げられている記事がありました。
ゾフィ転じたウルトラマンは、69年に後楽園でやったサークロラマ「モーレツ大怪獣戦」の新撮部分で使われます。なぜCやBが使われなかったのは不明です。
そしてそのまま、ゾフィ・マンのマスクは71年の「帰ってきたウルトラマン」で使われました。
最初のデザインはNGとなります。
当時学年誌を取っていた世代にはこのデザインも思い入れがあります。
Aタイプのスーツがゾフィ・マンですから、その型紙から描かれたNG新マンの体の模様はAタイプそのものです。
脚の長い古谷さんよりもきくちさんの胴が長いので、脚が短く感じられます。いえ、脚が短いとは言いませんよ。きくちさんもカッコイイ。
そのマスクと想定される物が残されています。つまり、ゾフィです。
考証は、ゾフィの項目で書いた斉藤さんの意見を参考にしています。



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〈9〉雛形
ここからはおまけ。雛形と言うのは、完成品がこうなるだろうと検討する小サイズのモデルです。
ところが初代ゴジラでは雛形より先に縫いぐるみが完成してしまう珍事が起きて、特撮キャラクター第一号からしてそんな変則な存在でしたから、彫刻家である佐々木さんが作った雛形も意欲的な着想でスーツが完成してから作り出した気がしてなりません。
もちろんこれが三面図の元にされ、商品化権の打ち合わせやぬりえなどで大いに役に立っています。
腰に手を当てたポーズは試着時の写真からでしょう。あるいは偶然もあったかもしれませんが、時間のない中、デザインで決定稿が出来ない中で始めた作業ですから、マスクやスーツ以前に雛形が存在するの方が不自然に感じるのです。
画像右下は、当の佐々木さんの近作。M1号で販売しました。



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〈10〉パースモデル
飛び人形まで考証する時間がありませんでした。作業の合間にやっていますので。
こだわりたいのは、今回、雛形を作って、上から見た写真がないなぁと残念がっていたところ作業も終盤にハタと気がついた。
どうもこの変身のパースモデルの頬のラインが雛形モデルと合致すると。
手前味噌の話です。
上からの形を想像で作った顔ですから、資料があったとはいえ顎のラインが合致するというのは自信過剰も甚だしい。
でもそういう仮定を置かないと先が見えない作業でもありました。
佐々木さんとしたら、原型があれば無理に作らなくても、頭だけ再利用して、上半身を作れば済む作業です。
画像、絵は、成田さんの話だとアニメーターの女性が描いたと。合成部の方でしょう。成田さんの発想でなかったそうです。
画像、左上のモデルは、佐々木さんの近作。横から見るとこんな感じなんですねぇ。





なお、映像、キャラクターの著作は製作会社にあります。



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