虎龍鬼


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虎龍鬼のオーバーマスクを作る

BK55.gifかつての怪獣同人誌の仲間から、彼の知人である虎龍鬼というマスクマン(レスラー)の入場時のマスクのパーツを作ってくれないかと依頼があったのは3週間前。
そもそも、ぼくは昭和のプロレスが大好きだった。
古くはマンガ「ジャイアント台風」や「タイガーマスク」「プロレス悪役シリーズ」などに感化されて、外人レスラーの名前や得意技を覚えたものだった。
お気に入りは、ドン・レオ・ジョナサン、フリッツ・フォン・エリック、ディック・ザ・ブルーザー、クラッシャー・リソワスキーら、ダイナミックなスーパーヘビー級の人たち。
それはでも、怪獣図鑑の面々と同様のキャラクター感覚だったと思う。
中学へ入った頃、電車の吊り広告に、「アントニオ猪木対ストロング小林」戦の告知を見て一気に熱が上がった。
その頃の最大の関心事は、「猪木対アリ」戦だった。
高校に入って怪獣同人誌の仲間でプロレス好きが居たので、誘ってもらって生のプロレスを何度か観に行った。
「8・26プロレスオールスター」戦も「猪木対ウイリー」戦も観に行っている。いま思うと歴史的な興行だった。
社会人になってもプロレスは好きで、ビデオに録ったり、観戦もしている。
時代が変わって、ジュニアヘビー級(100㎏以下)の選手の跳んだり跳ねたりの試合が1つのスタイルとなって、タイガーマスクやダイナマイト・キッドに憧れた。
ぼくなんかヒョロヒョロだから、とうてい格闘技なんぞは無理なのだが、私立の中高一貫校で道場が完備していたので、夏は剣道や柔道、冬は相撲が体育の授業になっていた。
土俵がある学校は珍しいと思う。まわしなどは締めないで短パンでやらされた。足についた泥を落とすための水道の水が、冬場つらかった。
まぁでも、良い思い出かもしれません。
だからではないが、身近にそういう人が居たら、いろいろ伺ってみたいと思ってもいた。
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虎龍鬼さんは、身長はぼくとさほど変わらないのに腕は丸太ん棒のようだし、90㎏くらいの重さで大きくて、顎の付け根を見るといかにも頑丈だ。
ジュニアヘビーで、跳んだり跳ねたりもするらしい。ぼくは名前はなんとなく知っていたものの、実際の彼の試合は観ていない。
試合は、ユーモアもありシリアスもあり、のようだ。
引き受ける作業じたいは時間が間に合うかどうか以外、とくに問題はない。
樹脂やシリコンをいじるのは15年ぶりになる。油粘土で粘土原型を起こして石膏型を起こすのもそれくらい、やっていない。
ソフビのフィギュアの粘土は石粉粘土を使う。昔は油粘土の方が性に合っていて、石粉粘土は難しいと思っていたのにここ10年の原型製作で、石粉粘土にだいぶ慣れた。
たとえば、乗用車に乗っていた人が、昔乗っていたダンプへ乗り換えるようなもの。運転を間違えるわけに行かない。
とにかく、打ち合わせをした。
虎龍鬼さんのマスクは、ちょっと変わっている。横から見て、目と鼻の所に大きな隙間が出来る。汗がたまるのを防ぐためだそうだ。特許の申請をしてあって勝手に真似が出来ない。
口の部分は取り外しが出来る。ホックがついていて、その日の気分で好きなパーツをすげ替えられる。
彼自身、プラモを作るので、そういう発想が出るらしい。
また、アニメや特撮が好きだったので、ここのところお気に入りの「我狼」のイメージにしたいと言われた。
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雨宮慶太監督も造型の竹谷隆之さんも、知らない人ではないからと思うが、いきなり同じにしてはマズイので、スケッチをいくつか描いて、虎龍鬼の特性を掴もうと試行錯誤した。
スケジュール的に、粘土原型は3日と決めていた。だけど、煮え切らなくて、4日目に上手く運んだ。
名前が虎龍鬼なので、虎と龍と鬼のイメージにした。我狼は、文字通り狼なので、差別化を考えた。
鼻から口元が虎、頬の鱗のような凹凸や眉のギザは龍、眉間と顎の感じを鬼にした。そういうニュアンスの複合体で、ちょっとゴジラも入っている(笑)。
プロレスの醍醐味は、まず入場時にある。音楽と登場シーン、観客はそこにまず沸き立つ。だからウケるに越した事ない。
金のメッキ風スプレーを使ったので、凹凸の部分が反射でだいぶ映えたと思う。
自分のイメージだけでなく、虎龍鬼>中の人の頑丈そうな顎に見合う大きな口にした。
ぼくにプロレスは出来ないが、一緒に入場するようなつもりで、自分の夢を託して作ったのでした。
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<メイキング写真解説>
1 スケッチ
いくつかラフを描く。依頼主のイメージに自分のイメージを重ねる。
当初は、顎の部分を、との事だったが、顔全体にした方が違和感がないと思って、仕事量は増えるものの、自分のイメージを描いて伝える。

2 土台(ベース)
頭部のライフマスクでもあればすぐに粘土を盛りつけられるが、まったく何も材料がない。もう造型はしないだろうと思って、引っ越しの際にほとんどの材料も工具も処分してしまった。
だから、粘土も石膏も買ってこないといけない。
興味のある人のために具体的な材料を記す事にします。
まず粘土を盛りつける土台(ベース)作り。木材をスノコ状に組む。発泡材を接着して、削る。だいたいの顔の輪郭を作る。
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石膏は、ペインティングナイフでケーキ職人のように盛りつける。
ギザが立つので、発泡材削り器で表面をなめす。
木材(2センチ×1センチ)180センチほど
発泡材
石膏
スタッフ(麻)
ペインティングナイフ
ゴムの容器
発泡材削り器




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3 粘土原型
粘土盛る前に、石膏の土台の表面にワセリンを塗る。でないと油粘土の油分を吸い込んでしまうため。
ただし、彫塑用の水粘土でも十分です。油粘土の方が指の感触が伝わるので、今回は油粘土を使いましたが。
原型でその後のすべてが決まってしまうので、納得の行く形を出します。

ワセリン
油粘土


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4 石膏がけ
粘土原型が完成したら石膏を溶いて、指で弾きます。筆で塗っても良くて、要は空気のダマを防ぐために、細心の注意をします。
指で弾くのは、高山良策さんに教わったやり方です。新聞紙がたくさん要ります。
途中からペインティングナイフで厚盛りします。この時の溶き方の基準は耳たぶくらいの柔らかさにします。補強のためにスタッフ(麻)をサンドします。
石膏は、発熱し始めたらあっと言う間に固まるので、要注意。
固まった石膏を粘土原型から外す。粘土が密着しているので、専用のヘラを使ってかき出します。

石膏
ヘラ

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5 樹脂
ポリエステル樹脂で原型の複製を取る。これを第2原型にします。
石膏型へ離型剤を塗ります。樹脂を3層、塗ります。
タルク(増量剤)を樹脂へ混ぜて粘度を出し、1層目。グラスファイバー(今回はチップ状のを使った)を混ぜて2層目。軽くもう1回やって3層。
硬化したら、ハンマーなどで石膏を割ります。スイカを叩くようにトントン、トントンとやると、簡単に割れます。
樹脂の表面はかなりぼこぼこになります。サフェイサー(下地塗りスプレー)を拭いて、磨き、ポリエステル・パテを盛りつけて、磨き、削り、また盛りつけて磨き、削り・・・を3,4回繰り返す。
バリの所は、リュターでガリガリ削る。最初にバリを取っておくと楽です。
この第2原型の表面をきちんとしておくと最後の複製が楽になります。

ポリエステル樹脂
硬化剤
硬化促進剤
グラスファイバー
タルク
ポリ容器
ポリエステル・パテ
下地塗りスプレー
アセトン

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6 衣装合わせ
初期の虎龍鬼マスクを借りていたので、まずそれに合わせてみた。まずまず。何度かパテの盛りつけと磨きを繰り返して、キリの良いところで当人の顔へ合わせてみる。
フィットしたので、一安心。
ただ、樹脂の複製はヒケ(縮み)があるので、ぴったり過ぎると完成品はきつい。
面そのものは、金具で固定しようと思って意見を伺う。
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7 シリコン取り
今回の最大のピンチはここだった。東急ハンズへ行ったら、この15年間で、ずいぶん樹脂の種類が増えた。と言う事は需要があるんでしょうね。
悪い事じゃない。
ただ、使った事のない材料は怖いので、馴染みの材料を選んだ。ところが渋谷のハンズでは信越シリコンが置いてなかった。
旭化成のが、だいたい同じように扱えると聞いて、それにした。
これが躓くんですねぇ。沫食いましたよ。
シリコンをいきなりかけられないので、原型の周囲に、Gボンドで接着させて硬質ウレタンを巻く。映像美術などの現場では、原型が大きくて、その上シリコンは高いので、なるべくシリコンを薄く使う。
そのため、押さえ型として樹脂を使う。今回のは小さいので、石膏で押さえ型を作った。
硬質ウレタンの囲みは、シリコンを最低限で済ませる知恵である。
ところが、だ。シリコンが固まらないじゃないの!

シリコン
硬質ウレタン
Gボンド
割り箸
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8 シリコン取り その2
マニュアルを見ると気温20度で6時間。硬化剤は全体の6%。
ぼくはそれまで、信越シリコンを使っていて、指定の量の倍以上の硬化剤で時間を短縮させていた。
シリコン型は永久に保つわけじゃない。仕事なので、せいぜい、1年保てば良いし、そうたくさん抜くわけじゃない。あまり丁寧にやらないで来た。
それにしても粘度はやや飴状になってきたが、いつ固まるのか、その気配がわからない。翌日、旭化成へ電話して聞いてみる。すると湿度が必要だと言う。そこで、加湿器を使った。
が、翌日も、ほとんど変わらない状態。48時間を経過して、もう諦めた。時間は切迫してくる。
2日目も旭化成へ電話して聞いた。担当者はよく相手をしてくれたが、固まらないんじゃしょうがない。硬化剤のパーセンテージは、6%厳守で、それ以上でも以下でもいけないらしい。
こちらの読み間違えだ。泣きながら(いえ、泣いていませんよ)シリコンをぬぐって落とした。いやぁ、こんなはずじゃ。
表面をアルコールで綺麗にしてから、再度、信越シリコンを流す。
信越シリコンは新宿のハンズに置いてあった。
吉祥寺は、10年前は、ウェーブも、ボークスも、イエローサブマリンもあったのだ。ぜんぶなくなった。
ハンズは遠いわけじゃありませんが、なるたけなら地元で買いたいと思っていた。けど、しょうがない。
信越シリコンは、昔のまま。1時間半で、1層目が固まり、補強のためのガーゼをはさんで2層目を流す。軽く3層。
それから、石膏で押さえ型。ここまでで、石膏は2㎏使った。
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9 樹脂成形
シリコン型さえ出来れば、さっさと樹脂を流すしかない。
タルクを混ぜて1層目。グラスファイバーを入れて2層目。さらに3層目。シリコン取りからここまでを一気にやる。
翌日、型から外す。
これもバリが出来るのでリューターで削る。
薄い所を厚くする。ぼくらは丁寧に扱えるが、相手はプロレスラーの握力なので、あまり薄いと持った時にぺきッと行くんじゃないかと思って、軽い方が良いのにと思いつつ、厚くなっていく。
サフェイサーを吹いて、軽く全体を磨く。もうこの段階でポリパテは使わなかった。
頭へ巻き付けるためのベルトを通す金具も、樹脂とグラスファイバーで固定。
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10 塗装
最近の商品にメッキ風スプレーがある。メッキは簡単に出来ない。メッキをやってくれる町工場もなくなってしまった。もし個人的にやろうとしたら、電話帳が必要となる。
ぼくが15年ほど前にアスキーの表紙のオブジェでメッキをかけようとした時、すでにバブルのあおりで、町工場がなくなっていた。見つけるのが大変だったのだ。
ともかく時間もなくて、スプレーで塗装する。銀を下地に、その上へ金メッキ風スプレー。端っことセンターを、オレンジのクリアで、牙を銀に。
ここまででも悪くないが、汚しを入れる事にした。
筆で墨を入れる。その回りをウレタンのブロックに黒スプレーを吹いて、そのウレタンを表面へ叩いて行く。化粧をする感じ。
墨を入れるのは、高山さんもやっていた。
時間がなくて、裏打ちの布を貼れなかった。本当は天竺布を貼りたいが、Gボンドを使うので、翌日が当日だから酔っぱらったら困ると踏んで、やめにした。

ウレタンもシリコンも化学変化する際に揮発成分が健康によろしくない。
グラスファイバーは、石綿と同じ理屈で発癌性になる。
おかげで喉をやられた。しかしそれに余りある作った時の喜びがある。
しょっちゅうはやりたくありませんがね。腕を見込まれたら頑張るしかありません。
正味3週間の突貫工事。久しぶりの作業ばかりで戸惑いつつ、無事に終わって満足感いっぱい。
良い試合になったようです。

虎龍鬼プレゼンツ!魔改造の館