銭形平次


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雑感


(再録)

銭形平次 09-04-02

65411.jpg時代劇専門チャンネルの「銭形平次」がついに最終回を向かえた。888話。最終回とは銘打たず、1時間半の拡大枠「銭形平次スペシャル」と題された。
サブタイトルは、「ああ十手ひとすじ! 八百八十八番大手柄 さらば我らの平次よ永遠に」。本放送は、84年の4月4日だった。
1人の主演ドラマの888本は世界的な記録でギネスブックに載っている。
この放送の半年後、12月7日、「銭形平次」を18年努めた大川橋蔵は、癌で亡くなる。55歳だった。
37歳で橋蔵が平次を演じたのは1966年だった。昭和41年。
高度成長期のまっただ中。その少し前に東京オリンピックがあり、皇太子の成婚でテレビが一気に普及した。
戦前戦後を通じて娯楽の王様だった映画は、62年を最大のピークに下降線をたどっていく。
テレビはまだ映画人にとって電気紙芝居などと揶揄されてはいたものの、邦画会社はこぞってテレビ部門をつくって自社のスタッフや俳優をテレビへ回した。
前にも書いたが、橋蔵は歌舞伎の女形として子供の頃から役者を生業として来たが、東映の時代劇へ出るようになり、若さまものを当たり役とした。
同じように子供時代を芸能界で過ごして映画へ出ていた美空ひばりが、競演した時に意気投合して、橋蔵の本名「富成」から「トミー」というニックネームを橋蔵へ付けた。
映画でからテレビへ移った橋蔵は、長谷川一夫の当たり役だった「銭形平次」の魅力を塗り替えた。
その若々しさ。活きの良さ。正義の岡っ引きのいなせな立ち振る舞い。
東映としても通常のテレビシリーズのつもりであったろうに、番組は視聴率を稼いで、終わる機会を逸したかのようだった。実際、東映はヤクザ路線を敷いたので、橋蔵は、映画を嫌った。互いに良い引き合わせで、「銭形平次」は名編を重ねて行く。
高度成長期が終わり、映画はいよいよ下火になり、かといって、テレビもオイルショックのせいで映画黄金期のような贅沢なつくりは出来なかった。70年代後半から80年代まではテレビ番組も生き残りが大変だった。
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おそらく、東映京都の撮影所は1つの村として機能して、なんとか時代劇の火を消さずに局や広告代理店と掛け合って来たのだろう。
大映も松竹も、京都の撮影所はそれぞれが時代劇を守った。この時代の時代劇は根性が入っていて、見ていて面白い。埋もれた作品をやってくれる時代劇専門チャンネルは宝物の宝庫だ。
そして「銭形平次」の終わる84年は、SFのブームまっ盛りだった。78年に公開された「スター・ウォーズ」以降、ハリウッドのSF映画が邦画を駆逐していた。
時代劇は時代遅れになっていた。それでも視聴率をとって、人気のあるまま終わった「銭形平次」はすごい。
とくに最終回までの半年分は、話がよく出来ていて、ふんどしを引き締めた感じだった。
橋蔵の顔は皺やたるみが増えたけど、眼光の鋭さや言葉のキレは若い平次よりもずっと良くなっていた。
最終回のゲストは、美空ひばり、五木ひろし、里見浩太朗、舟木一夫、汀夏子、和泉雅子、火野正平ら。
美空ひばりは、1回目のゲストで、途中も何回か出て、最終回も花を添えた。
美空ひばりが亡くなるのはこの放映の5年後で平成元年だった。その時、昭和は終わったと言われたが、ぼくは3年にわたって「銭形平次」が時代劇専門チャンネルで放映されて、ほとんどの回を見る事が出来たせいか、18年分の放映エピソードを回想すると、やはり昭和のある時代が終わっていくようで、今日は感慨深かった。
事件を終えた平次は褒美をもらい(こんな事は今までなかった)、伊勢へお参りしに出かける。恋女房と、一の子分・八五郎を連れて、3人水入らずの旅だ。
その場面で終わる。終わりながら、京都撮影所のあらゆる関係者に囲まれながらセットを歩いて野外の舞台へ上がって、大勢に囲まれながら出演者一同が花束をもらい、大団円を、「銭形平次」の主題歌に乗せながら、視聴者も現場に居合わせたかのように、讃えつつ、番組が終わっていく。
最後の最後に、橋蔵平次の挨拶だ。皆様の心にいつまでも残る平次でありたいと・・・。
その言葉が、「銭形平次」と同時に、大川橋蔵の遺言のように聞こえた。
最高の舞台で、最高の演技で番組を終えて、そして橋蔵は旅立ってしまった。
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出演者たちが大勢の関係者に囲まれる中、セットを歩いている時、橋蔵にもどった平次の隣は美空ひばりがいた。でも、舞台へ上がる時は、ちゃんとお静の手を取った。戦友のひばり、そして、女房のお静を13年努めた香山美子を左右に両手へ花とばかりに並べて、真ん中へ陣取った橋蔵の笑顔は充実感とこれからの希望に満ちていた。
明日から、「銭形平次」の傑作選が始まる。今月いっぱい。多彩なゲストの18エピソード。
その後は、風間杜夫版の「銭形平次」が始まる。風間は子役の時に、橋蔵の「銭形平次」へ出たそうだ。

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