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雑感


(再録)

八つ墓と犬神 08-08-11

400178.gif70年代後半はちょっとしたオカルト、ホラー、心霊などのブームがあった。ホラー洋画は前回少しふれたので割愛するが、同じジャンルにくくられる横溝正史の映画化が話題となった。
すなわち、76年の「犬神家の一族」を皮切りに東宝によって毎年つくられた「悪魔の手鞠唄」(77年)「獄門島」(78年)「女王蜂」(78年)「病院坂の首縊りの家」(79年)などの石坂浩二主演、市川崑監督の一連の金田一シリーズだ。
巷では、「スター・ウォーズ」の上陸でハリウッドのSFブームが起きていて、長く邦画SFをつくっていた東宝としても本家の意地とばかりに急造した「惑星大戦争」はまったくお粗末で振るわなかったものの、SFとは縁がないミステリーの「犬神家の一族」が大ヒットしたのだ。
この時期、横溝の版権争奪戦でそれぞれが得た、松竹の渥美清主演、野村芳太郎監督の「八つ墓村」(77年)、東映の西田敏行主演、斉藤光正監督の「悪魔が来たりて笛を吹く」(78年)がつくられて、まさに競合の様相を呈した。
しかし、ピークは2年ほどで、市川監督も東宝のなすがまま頼まれるわけに行かず、「病院坂の首縊りの家」ではこれが最後と撮影前に宣言した。
そんな案配だから、角川映画製作の古谷一行主演、大林宣彦監督の「金田一耕助の冒険」(79年)と鹿賀丈史主演、篠田正浩監督の「悪霊島」(81年)は蛇足のようで、話題性は高くならなかった。
最高傑作は、「悪魔の手鞠唄」だろうか。
ぼくは「獄門島」と「八つ墓村」「悪霊島」も好きである。もちろん、これらのDVDを速攻で揃えた(なぜか、悪魔が来たりてだけが未発売)。
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当時は、予告編が怖くて、思わせぶりたっぷりで、これは観に行かねばと決意したものである。
高校生だったから他に遊びもあったろうが、文芸座などで昔の怪獣映画の再映も始まって学校帰りは映画館へ足を運んだ。
もともと横溝ものを片っ端から読んでいた時期だった。「八つ墓村」は中学になってすぐを読んだ。
しかしその前に「少年マガジン」で影丸穣也が描く「八つ墓村」を読んだので、小説もたしかに怖かったけど、ビジュアルがつくとそのイメージが強くなって、そののちの映画にしても、正直、それほどで怖くなかった。
さらに後年、東宝がやっと版権をとって市川崑によって「八つ墓村」が撮られたけど、やはり70年代当時にやれなかったのが痛い。鴨居に頭ぶつける(ぶつけてないけど)長身の金田一なんてダメ。やはり等身大というか、普通の人がいい。
その点で、石坂金田一は最高にマッチしていた。あの寂しそうな表情とコミカルな仕草がいい。人間味に溢れて、人の痛さや悲しさを理解して、包み込んでくれる度量が石坂金田一に具わっている。
市川監督は、石坂に天使のようにと注文したと言う。因縁や憎悪を浄化する存在という意味だろうか。
トヨエツの金田一は石坂の劣化コピーのようで、最悪だった。

「八つ墓村」には元ネタがあるのは有名な話である。
ちょっと前にもワイドショーでやっていた。30人連続殺人の「津山事件」である。なんでも先だって「週刊朝日」で取材をしたそうで(事件後70年目に当たる)、テレ朝の朝の番組は連動した企画のようだった。
要するに、結核で差別された当事者の青年が、その地方で習慣としてあった夜這いを拒絶されるようになり、ついには村八分的存在となった事で、事件が起きる。
そして実際は30人ではなく32人という説も出た(すると8の倍数)。青年と夜這いで恋愛関係にあった女性はもうそうとうな高齢者だが、彼女がきっかけで事件が起きたので、事件後村八分となり、現在まで続いているという。さらに、青年の墓はお粗末なものだった(事件後自殺した)。
などなど80、90のお爺さんたちが答えていた。
横溝正史はよく取材をするタイプの作家だから岡山に住んでいた事で事件に思い入れもあったのだろう。
津山事件をそのまま扱った映画で、松竹の「丑三つの村」というのもある。やはり怖いのは人間そのものの抑圧が切れた時である。残虐にすぎるとの事で、R指定された。
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東宝の金田一はミステリーで、ホラーではない。ただ、「犬神家の一族」でホラーぽい箇所があった。
物語後半、高峰三枝子扮する松子が箪笥の戸棚へ収めてある神棚で、犬神を祀ってあるのだ。
当時、つのだじろうのマンガ「うしろの百太郎」などで紹介された、こっくりさんが流行った。犬や狐という低級霊を呼び出してちょっとした占いの答えを探り出すという古来からある習わしだ。それに失敗すると犬神憑き、狐憑きになる。
松子はセリフで、自分を押さえつけられない時があると告白する。その事と犬神とは関連があるのだろうか? この一族は、犬神の加護を得て繁栄したのだろうか? そして佐清と珠世は結局は血のつながりがあった。なぜ血を濃くする事を佐兵衛は願ったのか?

都会から来た人間が祠を壊し、犬神憑き、狐憑きに祟られる「犬神のたたり悪霊(たたり)」という東映の映画が、「犬神家の一族」と同じ年に公開されている。
土着的な風情があって、家に汚穢をかけられて罵られる村八分の描写など、怖かった。
それこそホラーではないけど、松竹の「楢山節考」で老婆が自ら歯を折ったり、間引きされた胎児を他人の田んぼへ捨てるシーンも怖かった。
どうも土着的な風習や掟、因習、地神、近親相姦、祟り、そういうものにぼくは興味を覚えるみたいだ。でも怖くなるのであまり専門的な知識は要らない。