金縛り


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雑感


(再録)

金縛り 08-08-10

怖い話は苦手である。だいたい怖い話というのは因縁とか怨念とか亡くなった者の不運な思いが反映されるので、もし実際、自分が怖い目に遭ったりすると、知らないウチに誰かに恨まれていたのか、それとも恨みの想念を踏んでしまったのか、あやふやなところも怖い。
つまり、理屈で結論が出ないのだ。そういうものは知らない方がいい。
最初に断っておくと、ぼくは怖いものが見えるとか、心霊研究しているとか、あやしい団体にいるとか、そんな事は一切ない。
ただ、怖い思いをいくつかした事がある。
ぼくは恐がりなので、幼稚園の頃からテレビで怖い話が始まると正視出来なかった。カーテンに隠れてこっそり見たり、危なくなると部屋を出た。怖いって言ってもその頃怖い話の番組などなく、「ウルトラQ」や「恐怖のミイラ」や「悪魔くん」を見て、怖がっていた。
大人になっても、恐がりで、それでいて、惹かれる事実もある。最初に惹かれたのは中学に入ってすぐホラーブームが来て、「エクソシスト」「ヘルハウス」「ローズマリーの赤ちゃん」「デアボリカ」「サスペリア」などをロードショーで観た。
どうして見始めたのかというと、まず「エクソシスト」でスタッフだか誰かが撮影後に亡くなったという逸話が怖かった。なぜ? と思った段階で、宣伝部の勝利だ。主演のリンダ・ブレアは可愛かったが、ものすごい形相が話題になった。汚物を吐くだの、十字架を使ってふしだらな事をするとか、もう見ないわけに行かない。たしか新宿の映画館でかなり並んだと思った。
もっとも怖かったのは、「ローズマリーの赤ちゃん」だろう。追いつめられて、誰も味方はなく、夫でさえ味方ではなく、悪魔の子を孕まされる。そういう集会も怖かった。
そのうち、さすがに粗製濫造が目立ち始めてホラー映画は観なくなった。
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幼稚園か小学校の低学年の時に、父方の親戚が亡くなって、新潟へ法事に行く事になった。田舎の通夜だから陽気に宴会が行われていた。
子供のぼくは仕方なく、1人で本を読んだり、珍しい土間のある台所で勝手に遊んでいた。ミカンを包丁で切っていたら、指を切った。血がたくさん出て貧血を起こしたのに不思議な事にぜんぜんイヤな気がしないで、横になった。
翌日、出棺、火葬が執り行われ、納骨となった。墓地の中の通路の十字路で、蛇がとぐろを巻いていた。
その頃、ぼくは楳図かずおの「へび少女」などを読んでいたのでは、これはヤバイ!と思った。
案の定、亡くなった親戚は結婚式の帰りに事故に遭ったそうだが、その家に住み着いていた白蛇の青大将がある時亡くなり、気味悪がって家の前の用水路へ流してしまったというのだ。年配の誰かがそんな話をした。
蛇のたたりだ!と思った。早く東京へ帰りたいと心底思った。ぼくは今でも残る傷を見ると蛇はたたると思う。

海外のホラー映画は、わりとカラッとしている。猫や蛇のたたりがあるのは日本映画が圧倒的に多いだろう。まぁたしかに、蛇と杖かなにかは医療の象徴に使われたりするから日本とは感覚が違うんだろうな。
怖い思いは20代の半ばにもした。
ぼくは金縛りに何度か遭った。だいたい夜眠れないのは金縛りが怖いせいもある。真っ暗な部屋で目が覚めるのはイヤなものだ。どんなに疲れていても、深夜は3時間もしないで目が覚める。疲れて眠たくなった時は部屋の灯りを点けないと怖い事になる。
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その頃、家族は大田区に越した。多摩川沿いで、街道の前の店舗付きの家へ越した。
ぼくはフリーで仕事をしていたので、疲れた時は宵の口でも横になった。たぶんその時は8時くらいに寝て、0時前に目が覚めたのだろう。親たちは中華屋をやっていたので、階下で賑やかな音がまだ聞こえていた。近所の人が来てカラオケをやっているのかも知れない。
その時、ベランダに隣接している裏の物干しからオジサンがこちらを凝視しているのに気がついた。ああ、またかと思った。真夏の暑い日だったので、ベランダの戸を開けブラインドを途中まで下げていた。
イヤだな、と思った瞬間、手足が動かない。
その間もオジサンは少し高い位置の物干しからベランダの手すりを越えてこちらへやってくる。
これは泥棒かもしれない! ぼくはなんですか!と声を出そうとしたが声が出ない。手も足も動かないので、焦りは頂点に達した。なんとか指1本を動かそうと集中した。1本、そしてもう1本。その時、オジサンはもう眼前にいて、こちらを見下ろしていた。
その瞬間だった。ぼくは、あろうことか、オジサンに襟首を捕まれ、そのままベッドから引きずり降ろされた。ズリズリどころじゃない、ズズズーッと簡単に引きずられて部屋の内側へ連れて行かれたのだ。
ぼくは絶叫した。絶叫しても声が出ないのでよけいにパニックになった。
気がつくと、はぁはぁと自分の呼吸が聞こえて全身に汗をかいて元の位置にいる。夢だったのか!?
階下の賑やかな音はまだ聞こえる。日常の風景だった。

この話を、ずっと後になって友人が編集で関わっているホラーコミックの心霊写真コーナーで見てもらっているある霊能者の先生に聞いてみた。興味半分で何度か着いていったのだ。
すると、その先生は、川が近くにありますか、と言う。枕側に多摩川が。川とか池や沼を枕の側にしてはいけませんよ。引きずられたのは、その川の方? いえ、反対です。それは良かった。川の方だったら、危なかった。
危ないってなんだよ!? と思ったが、つまり三途の川から、あなたのお爺さんが来て、その家は良くないから出て行きなさいと教えたのよ、と先生は続けた。
ずいぶん荒っぽいお爺さんだ。ぼくのお爺さんと言えば、前にも書いた母方の祖父、新潟の父方の祖父、それと母方の実の祖父がいる。実は母は養女として来ていて、父も養子として結婚した。
母を養女に出した約束に以後実父は会いに来ないと言うのがあったそうだが、ぼくが幼少時に高熱を出した際に、孫の一大事とばかりに一度来たと言う。その人がまた来たのだろうか? 
その家は、バブルの時期、土地開発の詐欺に遭って、取られてしまった。
ぼくは金縛りが怖くて真っ暗な中では今でも寝られない。